実際僕は、「男らしい」と言われたことがなかった。言われることはただ一つ、「女みたいな奴」だけだった。そんな時、僕はいつもただ泣くことしかできなかった。言い返す言葉も出てこなければ、腕力ももちろんなかった。――何年、いったい何年、そう言われ続けたのだろう。

 しかし、僕はある日決心した。「強くなりたい」と思い始めた。もう、何度も同じことを言われて泣くことには疲れてしまった。

――そこで、「**士官学校 第**期 新期生募集」の掲示を見つけ、これだ、と僕は思ったのだった。

 今僕は、戦闘機と共に宇宙を猛スピードで泳いでいる。目指すは、敵の小艦隊だ。
「やめろ! 深追いするな!」
 大尉の声だ。だが僕は見向きもしなかった。
――まもなく、味方の戦闘機が一機・・・・・・。

 僕は、作り付けの棚にいくつも並べられた楯、デスクの上の青い通話器、窓よりのぞく真っ黒な空間などを、ただ立ったまま見回していた。

――やがて、「ピーッ!」と音がして、長方形の空間の向こうから、男が一人入ってきた。――イルダ大尉だった。

「・・・・・・」
 僕は何も言わず、立ち尽くしていた。
「どうした、座りたまえ。私は君を叱るために自室(ここ)へ呼んだのではない」
 大尉はテーブルを前に腰を下ろした。本当に冷静な態度で・・・・・・。僕も座ることにした。

『どういうつもりだ。こんなに落ち着いて・・・・・・。怒鳴られるかと思ったが・・・・・・』

 僕はイルダ大尉が正直好きになれない。何を考えているのか分からないところがあるから、油断できないのだ。戦闘能力や指揮の実力はあるのだけれども、昔は時折上官に反抗していたらしいと、新入り仲間の声を耳にしたことがある。

「――自室へ呼ばれて、自分をどうなさるおつもりなのですか」
 僕は大尉の顔を、うつむきながら上目遣いに見た。
 すると大尉は立ち上がり、僕もつられて立ってしまった。
「今度から気をつければいい。何分君はまだヒヨコだ。若さから、気がはやったのだろうな。――ただし、しばらくは戦闘には出れんがな。それは覚悟しているだろう。次にあんなことをしたら、その時こそ問題だ」
 大尉は、人を小馬鹿にしたような笑みを含んで言った。その笑みにちょっとむっときて何か言ってやろうかと思ったが、上官なので踏みとどまった。

 彼は僕を見つめたまま、テーブルを回って僕の目の前まで来た。さらに何か言われるのかと思い、僕は身構えた。だが大尉はそっと両手を上げ、僕の頬に触れてきた。驚き、離れようと思ったが、大尉の視線から逃れられなかった。彼の、紫色の瞳に引き込まれてしまった。そうするうち、大尉の顔が僕のそれに重なり――。

「ピーッ!」
 僕は部屋から飛び出した。早く、できるだけ早く、大尉の元から遠くへ離れたかった。――胸の奥で、鼓動が早鐘のように響いていた。

『た・・・・・・大尉の・・・・・・大尉なんか・・・・・・イルダ大尉なんか・・・・・・!!』

――その夜、固い枕を涙で濡らしながら、何の夢を見たかは覚えていない。

END


katharsis