解説

 このお話は、「清太」という少年を主人公にして書き始めた、最初の小説です。
 ’95年7月よりノートに書き始めたものが元になっています。「清太」が自分の中で生まれたのは、それより少し前になります。
 それまでにもいろんなキャラクターやお話を考えたりはしていたのですが、形のある小説になることはなく・・・。当時、「一人称の長編小説」をいつか書きたい、となんとなく考えていました。
 そこで清太というキャラクターが生まれ、「この話だけはどうしても筆にしたい!」との思いから、タイトルも決まらないまま少しずつ書き始めたのが、この小説です。ですが、話が段々複雑になってきてしまい、’96年2月に頓挫したまま、続きが書けなくなっていました。

 それでも、いつかは世に出したいという思いは常にありました。
 そして、当時はネット環境がなかったため、まず1巻を同人誌(アナログ)の形で’99年8月に刊行し、その後ワープロやノートパソコンの故障などのトラブルがありつつ、なんとか2巻の準備号を’01年8月に出しました。

 その間、何回か本を持ってイベント(同人誌即売会)に出たのですが、手にも取ってもらえない状態が続いていまして、途方に暮れていました。個人情報誌に出して、ようやく少し反応があって嬉しかったのですが、それでも広まるには至らず・・・。「このまま誰にも読まれずに埋もれるしかないのだろうか」と悶々とした辛い日々を送っていたのです。

 そんな折、’00年の夏にやっとネットができるようになり、’01年にはHPを開設する機会にも恵まれ、まずは清太シリーズに興味を持ってもらおうと、イラストやイベント参加予定などから発表し始めました。最初は、あまりにも長い話ですし、少々問題作でもあるので、小説をネットで発表するつもりはありませんでした。

 ですがHPを作ったものの、イベントでは相変わらず本は売れず、またも途方に暮れる日々・・・。「清太シリーズはあくまでもアナログで完結させよう」と、ずっとがんばっていたのですが、このままだと広まるまでに何年かかるか分からないし、金銭的にも精神的にも限界になってきました。そんな中、一人でも多くの人に作品を読んでもらいたい、との思いが徐々に募り、HPで小説を発表してみようか、と思うまでに至ったのです。

 まず最初にHPに掲載したのは、短編の『DISH』でした。
 第一部はとても長く(予定では四六判の単行本1冊分くらいの長さ)、ついてきて下さる人がいるのだろうかとか、ネットで完結させる自信が今ひとつない、という理由もあり、お話が先にできている第二部や第三部から発表していきました。

 そしてここへ来て、第二部、第三部も大分出揃いました。
 当サイトの訪問者様は、ネットで清太シリーズを初めて知った、という方がほとんどではないかと思います。
 一番読んで欲しいのは第一部のこの『眠れる太陽、静かの海』で、元々の人物関係や事実関係を知ってもらうためにはやはり掲載せざるを得ないのでは、と最近になって思うようになりまして、思い切って連載を始めることにしました。
 本だといっぺんに何ページも書かなければなりませんが、ネットなら少しずつ掲載していくことができる、という利点もありますので・・・。

 文中、過激なシーンがあるかもしれませんが、あくまでも清太が幸せになれるかどうかを書いていくのが目的なので、こういうのは経過の一つだと思って下さい。

 第二部や第三部とは大分毛色が違うので、違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。少々無理があるかもしれませんが、この『眠れる〜』に関しては、真っ白な気持ちで読んでいただけたら、と思っております。
 第一部〜第三部まで、順番に発表できなかったことはお詫びするしかありません。

 なお、タイトルについて少し・・・。
 ギリシャ神話に「エンディミュオーンとセレネ」というエピソードがあり、エンディミュオーンは太陽の象徴、セレネは月の女神とされています。ゼウスに永遠の命と若さを与えられたエンディミュオーンは、目覚めることがありません。セレネは毎夜、眠れる恋人である彼を抱擁するため、地上に降り立つといわれます。沈みゆく太陽と、空を横切っていく月の運行とが、ここに例えられています。

 私はここからヒントを得て、「男らしさ」に憧れるのに、自分の中の「女」から逃れられない清太を表すのには・・・と考えて、太陽は男性、月は女性を表しますから、このタイトルを付けました。『静かの海』は、月の海に付けられた名前の一つです。また、サーファーの光樹が海が好き、ということにもかけています。

 時代設定は、このお話を考え始めた’90年代初め〜半ばころの、ポケベル全盛期です。
 どうしても、携帯電話を出して現在に置き換えてしまうと、お話が変わってしまいますので、当時のままにしています。
 また、元々の同人誌の文章から、若干の加筆修正をしながら載せていくことになるかと思います。

 連載完結までに長い時間――何ヶ月、何回かかるか分かりませんが、お付き合い願えたら幸いです。


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