目を虚ろにして、うつ伏せでベッドに横たわる清太。枕には、彼の目元から流れた涙が染み込んでいる。口元にも、透明なものが見える。
「おい・・・」
 男が、少年の上から声をかける。だが、彼には聞こえていないようだ。啓二はその肩に手をかけ、うつ伏せられた体を半分こちら側に引き寄せ、起こした。それでも、彼は起きない。涙は流れたままだ。
 パン、パン!と、男に両頬をはたかれ、ようやく清太は意識を取り戻した。
「まさかほんとに気を失うとはな・・・。お前俺の意のままだな・・・可愛いぜ」
 上半身は裸、下にグレーのボクサーパンツを穿いている啓二。
「僕は・・・あんたの道具なの? ただ欲望を満たすための・・・」
 清太は枕に頭部を預けたまま、力なく啓二に言う。
 啓二はふっ、と笑んだ。清太のあごにそっと手を伸ばす。
「お前と逢って最初のうちは・・・そういう要素もあったかもな・・・。でも・・・」
 少年の上に覆い被さった。
「今はすげー愛してる・・・」
 唇を重ね、舌を入れる。清太は眉を歪めて受け入れる。
「俺がお前をめちゃくちゃにしたくなるのは・・・それだけ愛してるってことさ・・・」
「嫌・・・」
 と、涙を溢れさせる清太。啓二を押しやり、顔を背けながら半身を起こした。
「僕の恋人は光樹だもの・・・あんたじゃない・・・!」

 啓二に向き合った。
「だいたい・・・愛してるなんて嘘だ! まやかしだ! あんたはただ自分のやりたいことをやりたいように・・・僕に強いてるだけじゃないか!! あんた一度でも・・・僕の気持ちを考えたことあるの!?」
 泣きながら、サディスティックな男に訴える。
 すると啓二は、立ったまま再びそっと清太のあごに手をやった。
「考えてるさいつだって・・・。俺はお前が望んでる通りの愛し方をしてる・・・。お前だって本当は俺のことを・・・光樹以上に愛してるはずだ。自分で認めたくないだけで・・・」
 手を離し、彼は不敵な笑みを浮かべた。
「いい加減で認めろよ。俺を愛してるって」
「なっ・・・!」
 少しも悪びれないばかりか、考えもつかなかった言葉を浴びせる啓二に、清太は声を失った。
「分からないなら分かるまで教えてやる」
 そんな清太に構わず、ス・・・と、ボクサーパンツを下ろし始める啓二。脱ぎ終えると、清太の左手を上げて掴んだ。
「今日は泊まりだな」
 少年の怯える目を見つめながら、澄ました声音で言う。
「い・・・やだ・・・啓二さん・・・」
 清太は体を震わせ出し、目でも訴える。

 それでも強引に、啓二は清太の唇を奪った。悠長に目など閉じている。
『こ・・・この・・・犬畜生・・・!!』
 不本意に唇を重ねながら、清太は怒りさえ覚えた。
「い・・・嫌だ・・・、僕もう・・・帰りたい・・・!」
 唇を味わうと、首筋に移ってキスをする啓二。
「いいや許さない・・・帰さない!」
 今度は胸だ。
「それにお前の体も・・・、こうして乳首噛まれると・・・まだ感じるだろ?」
「あっ・・・!」
 顔を仰(の)け反らせる清太。
 そのまま押し倒されてしまう。啓二は清太の脚を開かせ、真中のものを見つめた。
「こっちだってこんなに固くて・・・もっともっと触られたがってるぜ」
 見つめるだけでなく、掴んだ。
「あ・・・や・・・」
 嫌なのに、これ以上彼に抱かれたくはないのに、体は反応してしまっていた。隠したいけれど、彼の手に包まれていて、どうすることもできない。悔しさが募った。
「待ってろ・・・後ろも今濡らしてやるから・・・」
 清太の前を包んだまま、啓二は彼の入口を口で潤し始めた。
「あっだめっ・・・! んっ・・・! んっ・・・!」
 清太は手を口元に当て、思わず声を出してしまう。どうして、どうして体はこんなに自分の意志に反するのか。男の濡れた赤いものは、しつこく入口を攻めてくる。これから自分が入る神殿を、清めるかのように・・・。

「本当はほら・・・光樹とやるより俺との激しいセックスのほうが好きなんだろ? 腰が砕けるほどの・・・」
 啓二は少年の腰をきつく抱き、清太も嫌がりながらも相手の首に腕を回して、男の動きに合わせて揺れてしまう。
「あ・・・っあ・・・っあ・・・やっ・・・!!」
「俺が嫌いだってんならな・・・今やめたらお前嬉しいか?」
「! ・・・あ・・・嫌・・・そんなの嫌っ・・・!!」
 啓二は清太を抱き起こし、少年は脚の間に男を挟み、その膝の上に乗る形になった。
「ちゃんといって・・・いかせて!! 啓二さんっ!!」
 目を固く閉じ、快楽の中に身を漂わせながら、少年は叫んだ。仰け反り、汗に濡れた髪を振り乱して・・・。相手から離れないように、彼の首に回した腕にまた力を込める。

「でも・・・俺はまだまだいかないぜ・・・」
 清太に密着しながら、啓二は囁く。
「え・・・?」
「もっとお前の中で暴れ回って・・・お前が俺を求めてること・・・思い知らせてやる。いいだろ?」
 前髪を乱れさせ、甘く聞く。
「ん・・・うん・・・いい・・・」
 以前から惹かれていた彼の乱れ髪を目にし、朦朧とする意識の中で、清太は言った。
「僕をもっとめちゃくちゃにして・・・いいよ・・・朝まで・・・」
 攻める彼と一緒に頂点を目指して揺れながら、半ば閉じられた目で相手を見つめた。自分は彼を愛しているのだろうか、彼の言うように。それは分からない。ただはっきりいえるのは、この男と自分とが、互いに求め合わずにはいられない、ということだった。
『光樹・・・ごめん・・・。僕やっぱり・・・この人とは別れられない・・・』
 幾度(たび)目かの涙を流しながら、清太は目の前にいない恋人に心の中で呟いた。
 今自分の中にいる男から逃れることは、もはやできない。自分はこの男の飼い鳥なのだ、と気を失いそうになりながら思った。この身を縛るものは、鳥籠よりも強力なロープなのではないか? いつか読んだ童話の中の、いばらの中に身を捧げる小さなコマドリの姿さえ、今は何故か浮かんでくる・・・。


END


bound bird