その時、バスルームのドアが開いて、啓二が現れた。
「啓二さん」
 が、懐かしむように、彼の名前を呼んでしまっていた。瞬時に恋人の影は消え、目の前にいる男のことで、少年の心は満たされた。
「待たせたか。悪かった」
 そう言われ、胸が締め付けられた。
「ううん、待ってない。・・・電気、消してなかったの。お願い」
「ああ、そうだな。でもその前に・・・」
 啓二はまた冷蔵庫に近付き、ミネラルウォーターを取り出して、飲んだ。その様子を、少年はもどかしく見ていた。今日は、どこまで焦らすつもりなのだろうか。喉を潤すと、バスローブを着ている彼は、部屋の灯りを消し、カーテンも閉めて、ようやくベッドへと来てくれた。

 彼も脱いだバスローブをソファーにかけ、自分の横に、入ってきた。
「啓二さん」
 待ちきれず、少年は彼の首に腕を巻きつかせて、自分から勢いよく口付けた。今度は彼から舌を差し出してきてくれたので、少年は嬉しくなった。が、唇はやがてほどなくして、彼のほうから離されてしまった。
「どうした? そんなに焦ることないだろう?」
 啓二は優しく言った。
「だって、啓二さんがひどいんだもん。焦らしてばっかり。もう、僕を試すのはやめて」
 そしてまた、彼に唇を重ねた。

「今日って、本当は仕事がメインなの? 僕はついで?」
 責めるような目で、彼を見た。もうすぐ彼と共になれると気は緩み、先程は言えなかったことを、聞いた。
「そんなことはない。もちろんお前のためだ」
 青年は、少年の髪をなでた。
「ほんと?」
「ああ」
「だったら、証明して」
 腕を、首から背中に移して、少年は彼の胸に顔を預けた。

 すると啓二は、少年の肩を抱いて、横たえさせた。
「してやるさ」
 青年は少年の唇を奪い、舌も入れていった。清太は目を閉じ、自分の舌も、彼に捧げた。彼の背中に回した腕は、離さなかった。長い口付けが、始まった。
「あ・・・ん・・・」
 時折呼吸しながら、彼と酩酊を分かち合った。分かち合いながら、少年の体の中心は、徐々に熱くなっていった。固くなってきたそれを、彼は今日初めて手を触れてきた。というより、おもむろに強く掴んできた。
「あ、や・・・っ」
 たじろぎと嬉しさとで、少年は少女のような声を短く上げた。それでも、唇は離さなかった。摩(さす)ってほしい、と願っていると、彼はその通りに手を動かし始めた。

「あ、ああん・・・」
 キスの合間にも、包み隠さず、少年は感じるままに吐息を漏らした。どうして、彼には分かるのだろうか。布団の中で脚を開き、彼が摩りやすいようにした。
「け、いじ、さん・・・」
 やっと二人は唇を離し、啓二は起き上がって、少年の膝に手をかけながら、右手を更に早く動かす。
「い、や・・・っ!」
 少年は叫んだ。
「清太、可愛いぜ・・・」
 ソファーに座っていた時は整っていた彼の髪も、乱れ始めていた。ベッドサイドのライトは左右に二つあり、両方まだ点いていて、彼の妖しい顔を照らし出していた。

「ん・・・ん・・・」
 清太はシーツを握っていた右手を上げ、人差し指の第二関節辺りをくわえた。それを伸ばし、指先から口に含む。そうして、快感が昇り過ぎるのを抑えようとした。啓二によって弄ばれ、少年のものは更に膨らみを増していった。まだ彼との夜が始まったばかりなのに、すぐにはいきたくなかった。が、膨らむにつれて、敏感さも増していってしまう。
「嫌・・・」
 声にならない声で、少年は訴えた。啓二に対してなのか、それとも自分か。
「こんなにして・・・そんなに待ってたのか?」
 啓二は身を屈めて少年の脚の間に頭を入れ、固くなっているそれを持ったまま、軽く口付けた。
「あ、あんたの、せいだ・・・」
 清太は、目を閉じて呟いた。

「そうやって、欲しがってくお前を見るのが・・・俺は好きなんだ」
 熱くなっている少年のものの表面を、啓二は舌で愛撫した。相手の内腿を左手で支え、感触を楽しむ。
「・・・嫌い・・・っ」
 少年は快感と軽い怒りに包まれ、頭を振った。
 青年はやがてそれを、口でくわえ込んでいく。くわえた後は、舌の動きを速めた。
「あ、ああっ・・・!」
 たまらず、少年は叫んだ。歯を噛み締めて自分の指を傷つけてしまいそうなので、枕を両手で掴み、やがて相手の髪に指を埋めた。触れた彼の髪は、興奮からか、湿り始めていた。

 少年の感じるポイントを、彼は既に知り尽くしていた。そこを1点ずつ舌で攻められ、清太は快感を持て余した。
「あ、そこ、嫌・・・っ」
 顔を仰け反らせ、感じた。いってしまいそうになるのを、必死で堪(こら)えながら・・・。
「我慢しなくていい・・・。出せよ、いいから・・・」
 少し口を離したすきに、啓二は言った。そして、また少年のものをくわえ、苛めた。
「い、嫌、あっ、あ・・・っ」
 それでも耐え、青年の髪を指先と掌とで乱していった。しかし、一番先端を刺激され、清太の中で何かがはち切れた。
「ん・・・、あっ、あっ、ああっ・・・!」
 一度目の頂点を、少年は迎えてしまった。彼の口中に、熱情を放ってしまった。初めての経験ではないが、恥ずかしさは募った。目を閉じて荒く息を整えながら、彼の顔を見ないようにした。

「可愛いぜ」
 少年の熱情を飲み込んだ彼は、役目を終えた相手のものを解放し、微笑んだ。
 やっと自分の分身が自由になり、清太は一仕事を終えた人夫のように、息を深くついた。彼の髪からも、両手を離し、ぐったりとシーツの上に落とした。
 啓二は起き上がり、少年の左横に来て、栗色の髪をくしゃっと押さえた。その髪は、前戯の一幕を終え、濡れていた。
「啓二さん・・・」
 清太はまだ身を横たえていない青年に手を伸ばし、口付けを求めた。それに答える彼。少年には、その口付けが甘く感じた。まるで、愛している相手にするかのようなキスだ、と思った。

『愛してる・・・? 僕が、啓二さんを・・・? いや、違う』
 少年は自分の中で否定した。啓二の体には惹かれているが、心はどうしても、光樹のものでいたかった。これから啓二と交わる、こんな状況でも・・・。
――抱いてほしい、ただそれだけだ。
 少年はこんな意味付けを、この場に押し付けた。烙印を押すように・・・。

「清太、どうした?」
 短い口付けの後、少年が物思いに耽っているので、啓二は、額に張り付いた濡れた前髪を優しく掻き揚げてくれながら、聞いてきた。
『そんなに優しくしないで・・・』
 言葉には出さず、清太は心の中で相手に願った。潤んだ目で、啓二の目を真っ直ぐに見ながら。
「ううん、疲れちゃったの、ただ」
 少年は作り笑いをした。
「まだ本番じゃないぜ」
 啓二は笑い、少年の首筋に唇を押した。
「あ・・・」
 少年は、青年の背中に腕を伸ばした。

 少年の乳首を、青年は指先で弄び、舌でも愛撫した。彼にそうされるまで、その存在すら忘れていた。自分は、男なのだから。しかし感じやすくなっている左右のそれは、熱を持ち、桃色に染まっていった。その間にも、啓二はまた少年の股間へ手を伸ばしたが、今度は道具のほうは素通りし、後ろの入口に触れてきた。
「あんっ・・・!」
 体の中で一番敏感なその地点に触れられ、清太はまた少女のような声を上げた。そこは、既にひくついていた。入口の周りを指で愛撫されるうちに、前の分身のほうも、また頭をもたげてきた。
「や、ん・・・」
 自分が女に変身していくような、不思議な感覚に少年は包まれていった。だが後ろの部分は女になろうとしているのに、前は男のままだった。

 啓二は、体勢を変えて少年の下半身のほうへと移動した。布団は、いつの間にかベッドの片隅へと追いやられていた。少年は脚を開いて膝の裏を自ら支え、相手に見えやすくした。まだライトが点いているので、その部分も照らされてしまっているだろう。その恥ずかしさはあったが、彼に見てほしいという気持ちもあった。
 啓二は自分の人差し指を舐めて濡らし、少年の入口にまずそれを侵入させた。
「ふっ、ん・・・っ」
 1本で、青年は少年の入口内部を、探り始めた。小さい道具をくわえ込んでいるような快感が、少年を襲った。ある程度緩むと、啓二は一度指を抜いて、代わりにそこへ、舌をねじ込んでいった。
「ああっ」
 そのまま、スクリュー状に舌を動かされ、少年の分身は、益々起ち上がった。
 少年の体が男に慣れ、濡らして軽く解(ほぐ)すだけでも、すぐ交合できると分かっていながら、啓二はいつもこうして、入口を苛めたがった。


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