暗い天井を見ながら呼吸を整える。
「素敵だね・・・」
優理は青年の凝縮した小さな突起を指先で弄んだ。涼はさせるがままにした。
回復を覚えると涼は少年の肩を下から持ち上げ、体勢を逆転させた。
数秒見詰め合い、首筋を撫で、少年によって中断された愛撫を続けた。下腹部中央にある窪みをまずは周りから濡らし、窪みそのものにも舌を落とした。顔を見ると彼は感じ、目を閉じて息をついている。
彼のもののところに到達した時、涼は彼の両脚を曲げさせ、開かせた。脚の裏はまだシーツの上にある。口をつける前に、右手で彼の内股を支え、左手でその大きく膨らみ上を向いているものを包んでみた。優理はまたびくりと体を波打たせた。収めた掌の中で、それは脈打っていた。
その後の動きを予想して、少年は体を強張らせる。まだ何もしていないのに、両手は水色のシーツを掴む。その指先は震えている。
「触れられるのは・・・初めてじゃないんだろう?」
涼は囁くように聞いてみた。
「だって・・・だって・・・」
『恥ずかしい』と続きを言うことを、優理はためらった。今まで何人もの男たちに触れさせてはきた。が、愛する男にそうされるのは初めてなのだ。この時を、優理はずっと待ちわびていた。なのに、緊張し自然な自分を見せられないでいることが、歯がゆくてならなかった。
曲げた親指と人差し指の間から覗く彼のものの先端を、涼はじっと見詰めた。十分に熱を持ち、固くなり立ち上がっているそれは、彼の興奮を否応なく伝える。
涼はそれを、手に包んだままゆっくりと優しく上下に数回さすってやった。愛情を込めて・・・。
「あっ・・・」
少年は短く叫んだ。
青年は手を離すと今度は唇を寄せ、脈打つ表面に当てた。様々な個所に移動させる。付け根にある袋状のものにも、口付けた。
「涼・・・」
自分の立っているものを手で扱(しご)かれるか、彼の口に含まれると思っていた優理は枕に頭部を預けたまま戸惑いを見せた。焦らされているのだろうかと、さらに思う。
唇を一旦離し、涼は彼の最後部に視線を移した。それは息づいてはいるが固く締まり、他者の侵入をすぐに受け入れるようにはできていなかった。やはり、ここは誰にも触れられたことがないのか・・・。かつて見た武司のそれを記憶の中から蘇らせ、比べてみても分かる。少年の脚をさらに曲げて開かせ、そっと右手の人差し指で触れてみた。すると優理は今までで一番、体を振るわせた。
「ん・・・っ」
軽く触れられただけで、優理のそれはさらに固く締まってしまった。涼は具合を触覚で確かめるため、指先で優しく押してもみた。
「い、嫌・・・」
少年は頭部を枕の上でそのほうに傾けて、僅かな抵抗を見せた。頬も肌も上気し、表情は羞恥に歪んでいる。
涼はできるだけ、痛くないようにしてやりたかった。傷つけたくはない。どうすれば、そうすることができるだろうか。自分が初めて武司に抱かれ、また自分が攻めた時のことを思い出しながら、彼に教えられたように準備を施すしかないのか。彼は多少激しくはあったが、指先で十分に時間をかけ、解してくれた。それで繋がっている時の痛みはだいぶ和らいだ。怖くはなかった。彼を、信じていたから・・・。
「涼・・・俺・・・」
その部分を愛する男に晒しながら、優理は深呼吸してから微かな声で呟いた。膝を深く曲げているので、脚の裏はシーツについていない。
「俺・・・痛くてもいいよ。あなたなら・・・。血が出てもいい」
「そんな・・・」
息づく彼の入口から顔に視線を移し、涼はその覚悟を表情から読み取った。しかし・・・彼の言葉に従うわけにはいかない。心ではこの少年と愛し合いたいと、感じ合って一緒にいきたいと思い始めていた。たとえ、今夜一晩だけの関係だとしても・・・。
まずはこの入口を、潤さなければならなかった。
青年の手は再び少年の屹立し熱くなっているものを包み、根元と先端の間を素早くスライドし始めた。
「あっああっ・・・」
刺激され躍らされて、優理は掠れた声を上げた。すでにはちきれんばかりになっていたそれからは、すぐに白濁したものが青年の手の中に迸った。それを指先に取り、彼の入口に塗る。
「ごめん・・・。俺、何も持ってないから・・・」
今手の中にあるものを、オイル代わりにするしかなかった。先ほどはそれだけで足りるのかどうか分からず、迷ってしまったのだ。
「んっ・・・あ・・・っ」
涼の人差し指が徐々に中へと入れられる時、少年は初めての感覚と苦痛に眉を歪めた。青年は濡らすことに神経を集中させた。まだ、そこは固い。指は1本だけなのに、締め付けてきてうまく動かせない。
「力、抜いて・・・」
「ん・・・や・・・・」
青年に促されても、緊張が解けずその通りにできない。少年に握り締められたシーツには、多くの複雑な皺ができていた。すでに目尻には涙がにじんでいる。
「涼・・・」
それでも愛する男との交合を夢見、優理の入口はようやく緩んだ。
かなり時間がかかったが、ようやく2本目の中指が入った。そして、3本目も・・・。
「いっ、嫌っ・・・」
痛くてもいいと自分から言ったのに、怖さと痛みにそんな大きな声を上げてしまうことが優理は悲しくてならなかった。愛する者にこんな惨めな姿を晒してしまうことが・・・。頬を伝った涙は、多くの意味を持っていた。
涼はそんな彼を見て、やはり相手に痛みを与えてしまったことを悔やんだ。それでも繋がる時の痛みを和らげてやるために、指を懸命に動かし続ける。
明りを点けない暗い部屋に、少年の呻きとその部分を解す微かな音とが響いた。そんな中双方とも、相手を求めていた。早くその時を迎えたいと・・・。
「あ・・・あ・・・」
少年の声色が、やがて変わった。気付くと、彼の中を泳ぐ3本の指が滑るようになっていた。涼はそっとそれを抜いた。少年は短く息をつき、その後呼吸を整える。
彼の両脚を開いて持ち上げ、その間に自らの体を収めた。その時を感じ、優理は息を止めた。青年は先ほど彼に刺激され、彼の入口に入る準備をしている間により固く持ち上がっていたそれを、ゆっくりと彼の中へと滑り込ませた。
「あ・・・うう・・・」
かつて経験したことのない、その部分が押し広げられる圧迫感に、少年は呻いた。心は喜びと嬉しさで満たされている。が、体も声もそれを表してはくれない。
「優理・・・息、吐いて・・・」
このまま体を進めることはできないと判断し、涼は優しく言った。まだ、自分のものは半分も入っていない。落ち着かせてやろうと、少年の両手に上から自分のそれを組み合わせた。汗ばんだ感触があった。
「は・・・はあ・・・」
彼の優しさを感じ、ようやく優理は深く息をつき、彼が入りやすくなるように努力した。すると、さらに彼のものは奥へと進み、入口を押し広げてくる。まるで体中、彼に満たされているような気分になった。
「うっ・・・んん・・・あ・・・」
止まらぬ涙を枕に染み込ませ、彼の手を握りながら優理は耐えた。涼はそれが根元まで入ったのを確かめた。
「優理・・・」
「涼・・・」
二人は見詰め合い手を握り合ったまま、相手の名を愛情を込めて呼んだ。そして、青年はゆっくりと彼の中で動き出した。
「あっああっ、涼・・・っ!」
少年は待ちわびた瞬間の喜びに、叫んだ。初めは苦痛が襲ってきたが、彼が十分に準備してくれたおかげで覚悟したほどのものは感じなかった。これが快感に変わるまではまだかかるかもしれなかったが、彼に愛されるのならどれだけの時を経てもいいと、揺さぶられながら思った。
「んっ、ああっ・・・ああっ・・・」
突かれる度に、リズムに合わせて優理は声を上げた。その声を、涼は愛しく思った。この少年が愛しいと感じた。体だけではなく心も、彼を愛し始めているのだろうか・・・?
「優理・・・好きだよ・・・」
その言葉は、自然に漏れた。動きは徐々に激しくなる。優しくすることなど、もはやできそうにない。
「あ・・・ああん・・・俺も・・・す、き・・・」
まだ自分から腰を揺らすことを知らない少年は、彼の動きを受けるがままに感じた。涙は次から次へと溢れ出し、止まることがなかった。
「涼・・・愛してる・・・」
優理の唇から漏れた言葉に、涼はより彼に近く覆い被さり、動きながら口付けた。
舌を絡ませ攻めながら、相手に快感が訪れるのを待った。一つになるためには、どうしても必要なことなのだ。ベッドの軋みは、二人の耳に届くほど大きくなっている。今はその音と荒く短い二人の吐息とが部屋に満ちていた。
「優理・・・まだ痛い・・・?」
「ううん・・・。あっ、あっ・・・いい・・・」
少年の声が、快感を伴ったものに変わる。目を閉じ、自分に全てを委(まか)せている・・・涼はそう感じた。彼の入口が、自分を締め付けてきてもいる。愛しさは募った。組み合わせていた手を離し、彼の背中とシーツとが接する部分に滑り込ませ、抱きしめる。彼の腕は自分の首に回される。
愛し合うとは、こういうことなのだ・・・。互いが互いを求め、一つの頂点を目指して感じ合うことが・・・。それを涼は、初めて出逢ったこの少年によって知ることになった。今は彼に、自分の全てを与えたくなった。愛せるだけ、愛したかった。
「涼・・・一人じゃ、嫌・・・一緒に・・・」
快感の中、少しずつ自分からも腰を揺らし始めた優理は恍惚とした目で哀願した。
「分かってる・・・一緒に・・・いこう・・・」
優しく微笑み、青年は一際大きく腰を振り出した。
「ああ・・・っ」
シーツの上は、二人の汗で濡れ乱されて皺も動きながら数を増していた。
「涼・・・俺・・・もう・・・」
「優理・・・」
涼が吐息の中呟いた数秒後、少年の奥深くまで熱情が勢いよく注がれた。少年もほぼ同時に体の外に吐く。
Bittersweet Carnival
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