涼とヒロがバスルームに消えると、部屋には当然、清太と武司の二人だけが残された。
同じ街の一角にあるホテルの一部屋に、4人で入った。
先ほど店の中で長髪の彼に怒鳴られてからというもの、清太はすっかり怯えていた。その前までは、てっきり「子供は帰れ」とでも言われるのかと思っていたが、全く逆のことになってしまった。
この男とだけは、二人きりになりたくなかった。彼は、清太が今までに出逢ったどの男ともタイプが違っていた。自分の意見をずばずばと言ってのけ、物事に動じない――いわば、”一番苦手なタイプ”とでもいえようか・・・。
『まだ怒ってるのかな・・・?』
清太は、傍らに立っていた彼のほうを見た。彼は「座りな」とぞんざいに言い、身動きした。帽子を取り、テーブルの上にぽん、と置くと、シャツの胸ポケットから煙草の箱を取り出した。1本を抜き、口にくわえ、顔を上げる時に、さりげなく髪を掻き揚げた。彼を怖がっていた清太だったが、その仕種には色気を感じた。武司は続いてライターも同じポケットから取り出し、くわえている1本に火をつけた。
『この人、かっこいいことはかっこいいんだけど・・・』
言われて、ベッドのへりに腰掛けながら、清太は思った。彼の顔は、奥二重で、鼻梁がすっとしていて、唇は薄い。肩まで伸びた黒髪は、とても似合っていた。純日本人風の二枚目・・・という感じだ。変な例えだが、時代劇の格好をさせたら、これもまた似合いそうだった。
武司が、テーブル横の椅子に座って、最初のひと吹かしを吐いた。ベッドとテーブルの位置は近く、清太は煙たそうな顔をした。
「なんだ、お前煙草だめなのか?」
「うん・・・気持ち悪くなっちゃう」
言ってから、清太は相手の気分を損ねたかと、狼狽した。しかし武司は表情を特に変えるでもなく、煙草をくわえたまま椅子を窓際まで運び、窓を開け、そこに落ち着くと、続きをやり始めた。煙草を吹かすうち、彼の気分も落ち着いてきたのか、口を開いた。
「あ、そこの灰皿取ってくれ」
その口調には、怒っている気配が感じられなかった。だが立ち上がって、テーブルの上の、銀色の灰皿を手に取り、歩いていって彼に渡す時、清太は緊張してしまった。
「何ビクついてんだ」
片手に灰皿を持ち、トントンと灰を落とすと、武司は少し笑って言った。
「だって・・・」
武司に背を向け、続きの言葉が思い浮かばないまま、ベッドに戻った。
彼を怖がっていたのと同時に清太には、もう一つ怖いことがあった。それは、自分が今日出逢ったこの3人に、まわされてしまうのではないか――という恐怖だった。
清太には、まだそういう経験がなかった。どんな相手であれ、今まではあくまでも1対1だった。
この街に辿り着いた時は、そこまでする気はなかった。最悪でも、声をかけられた誰か一人と寝て、すぐに帰るつもりだったのだ。それが、こんなことになってしまった。隙を見て逃げようかとも思うが、男3人が相手では、逃げようがない。今の見張り役は、この長髪の男だ・・・。
そう清太が考えていると、武司が再び口を開く。
「で・・・そのオヤジと、また会うのか?」
「え・・・?」
なんのことか分からず、清太は一瞬戸惑った。が、すぐに、なんだあの話か、と思い当たった。その話は、もう終わったつもりだったのだが。
「会わないよ。電話番号もベル番号も、教えなかったし。名前だって・・・」
清太は、下を向いてベッドの白い掛け布団をさすりながら、少し気を許して言う。
「そういや、お前の名前、まだ聞いてなかったな。・・・なんてんだ?」
武司はいい機会だとばかりに、聞く。
体を知り合う前に名乗るのは嫌な気がしたが、清太は答えた。
「清太。あんたは?」
「武司だ。あいつらは・・・茶髪が涼で、金髪がヒロ。・・・他にも俺たちのこと、聞きたいか?」
「いいよ。どうせすぐに別れるんだし・・・」
武司と話すうちに、だんだん覚悟を決めていった清太だった。逃げられないのなら、もう、なるようになればいい、という、自暴自棄な気分にもなっていた。
「さて、と」
煙草の火を灰皿でもみ消し、武司は立ち上がった。灰皿を持ったまま、清太のほうへ近づいてくる。清太はまた緊張した。彼はすぐそばまで来た。灰皿を、乾いた音をさせながら、テーブルの上に置いた。そして、そこを回り、清太の横に座る。清太はどぎまぎとしていた。
「まだ、ビビッてんのか?」
言うと、清太の肩を抱き寄せ、今日出逢ってから2度目のキスをした。急なので、すぐには目を閉じられなかった清太だが、3秒ほどのちには、閉じた。
初めは、軽く唇が触れる程度だったが、武司から舌を入れてやると、清太のほうも迷うことなく、からませてきた。
『こいつ・・・』
そのキスの上手さに、武司は内心驚く。
清太のTシャツの裾から手を入れ、胸に滑らせてみると、思いのほか、厚かった。再び腹のほうまで戻してみると、これも鍛えられているのか、固かった。
「お前・・・もっと華奢なのかと思ってたぜ」
「そう・・・?」
キスを続けながら、清太は掠れた声で言う。目は、うっとりとしたように半分開かれていた。体は、武司に預けている。
その時武司は、今すぐにでもこの少年を抱いてみたい衝動にかられた。それは、怒りにも似た衝動だった。清太の、本当の姿を見てみたくなったのだ。天使か悪魔か、確かめてみたい。
「あ・・・」
そのまま、ゆっくりと清太をベッドに押し倒した。顔を見ると、今度はぎゅっと目が閉じられている。――覚悟したのだろうか。思っていると、清太は下から、武司の背中に腕を回してきた。
『こいつ、ひょっとして・・・』
首筋に口付けてみると、少年はまた一つ、甘い声を出した。
二人の体は、ベッドに対して対角線を作っていた。清太は自分から腰と腕を動かし、自らの頭が枕に沈むよう、移動した。武司も彼に合わせ、動く。
「ね・・・ねぇ・・・」
バスルームから聞こえるシャワーの音を気にしながら、清太は話しかけた。
「なんだ?」
裸になった武司は清太の上で、聞く。
「今日、3人で僕をやっちゃうつもりなの・・・?」
「そんなのあいつら次第だ」
「あ・・・いい・・・あんた上手いね・・・」
少年のなまめかしいその姿は、店にいた時とは、まるで別人だった。
涼とヒロは、二人でバスルームにいた。本当は二人とも、清太と入りたかったのだが、武司に制されてしまったのだった。「どちらかと入るほうが、危ない」と・・・。
二人は、特にヒロは、石鹸を使って念入りに体を洗った。
「よー、なんか夢みたいだな。ほんとにあんなきれいな子とやれるなんて・・・」
シャワーの栓をひねり、ヒロは言った。
「でも・・・、3人でやっちまうってのは、やっぱちょっとかわいそうじゃねーかなー・・・」
涼は言う。
「何言ってんだ! 自分が一番やりたがってたくせに!」
と、ヒロは涼にからかうように、温かくなったシャワーの湯を浴びせる。涼は目をつぶって、よける身振りをした後、
「いや・・・実は一番は武司かもよ・・・」
と言った。
「そーとも言える」
肩をそびやかし、納得したような顔をするヒロ。
二人の脳裡に、先ほどの店での武司の言動が蘇る。
「お前らもこいつが欲しけりゃついてきな!」
逃げないようにか、少年の肩に腕を回し、がっしりと掴んでいた。
「武司・・・」
「強引な奴・・・」
二人とも、呆れ顔でしばらく眺めていたが、すぐに武司たちの後についていった。
「ああっ」
その時、バスルームに少年のものらしい大きな声が、響いてきた。聞いた途端、二人は赤くなった。
「すっげ〜色っぺー声・・・」
『あれがあの子の声か?』
涼はまたも、少年に驚かされた。
「あいつもう抜け駆けしてる・・・! 俺もう出るぜ!」
体についた泡をもどかしそうに流すと、シャワーのノズルを涼に預け、ヒロはバスルームを飛び出していった。
『下半身には・・・逆らえないよな・・・』
赤くなったまま、涼は思った。
「おいっ、何か飲ませるとかして待てねーのかよ! 武司!」
裸のままドアを開けて駆け出てきて、ヒロは叫んだ。
ベッドの上には、すでに果てた少年と、武司がいた。
「何だ、出歯亀」
息を整えながら、武司は振り返って言う。長い髪は乱れている。続いて、身を横たえた清太を見やった。
「見ろよ。こいつ感じやすいの。俺より先にいっちまいやがった」
「も・・・もうちょっと優しくしてやれよ・・・」
たじろぎながら武司に言いつつも、『次、やりてーけど、回復するの待ってやらなきゃな・・・』などと考えているヒロだった。
「なんだよ・・・。人にがっつくなとか言っといて、一番がっついてんの、自分じゃんよ、武司・・・」
涼が、ゆっくりとドアを開け、出てきた。腰には、白いバスタオルを巻いている。
a Boisterous Night
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