そのまま、二人のいるベッドへと歩いてくる。ヒロも立ち上がって、自分が下にしていたバスローブを手に取り、軽くはおった。武司の後についていく。
「で・・・清太・・・だったな。今日はいくらぐらい欲しいんだ? 3人いりゃ、結構な額になるぜ」
 涼が自分で聞き出したかった少年の名前を、武司は易々(やすやす)と口にした。いつの間に名乗り合ったのか・・・涼は奥歯をかみしめた。
「俺まだやってないっちゅーの!」と、ヒロは武司の後ろで、また独り言を言っている。そして、テーブル横の椅子の一つに腰かけた。

 ベッドへ辿り着くと、武司はその上に後ろ向きに乗ってきた。片膝を立て、そこに片手を載せる。
「もっとも・・・俺たちゃしがない大学生だからな・・・。カイシャ行ってるオヤジと違って、10万は出せないぜ」
 すると清太は、ふと目を細めた。
「なんだ・・・あんた悔しいんだ・・・。僕が行きずりのオヤジに10万で買われたのが・・・。自分が僕の最初の買い手になれなかったから・・・」
「何!?」
 武司の眉間が険しくなった。
「あんたも僕が好きなん・・・」
 その言葉を聞き終わらぬうちに、武司はすかさず清太に飛びかかり、両腕を掴み、叫んだ。
「このガキ・・・!! 誰が商売やってる奴なんかに本気になるか!」
 清太はしかめっ面をしたが、怖がる素振りも見せなかった。
「お前はただの商品だ! この淫売が!」
「おい・・・そりゃ言い過ぎだって・・・」
 同じベッドの上で二人のやりとりを見ていた涼は、両手を上げて武司を止めようとした。
「お前は黙ってろ! だいたい何が一目惚れだ!! 遊びに本気になるな!」
 武司の剣幕は収まらない。
「だ・・・だってよ・・・本当に好きなんだ・・・」
 涼は赤くなりながら言った。

 そこで、やっと武司の勢いが止んだ。清太の手を離した。
 ヒロもびっくりしながら見ていたが、ほっとした。
「・・・マジだろうが遊びだろうがよ・・・やることは一緒じゃねーか」
 今度は武司は、涼のほうを向く。
「俺たちは公然とデートなんてやりにくい・・・。結局してやれることなんて、ベッドの上のことだけだろ?」
「それは・・・そうかもしれないけど・・・、金出すのと出さないのとじゃ、やっぱ違うだろ?」
「フン、お前はケチなだけだよ涼・・・。時にお前、今付き合ってる男いるのか?」
 と武司は再び清太に向き直る。
 清太は両手を膝の上で組みながら、ゆっくりと答えた。
「一応いるよ・・・あんたたちと同じ大学生の・・・」
 それを聞くと涼もヒロも、言葉に出ないほどのショックを受けた。

 武司はやはりといったふうに、鼻で笑う。
「ほらな、やっぱりこいつは淫売だ」
 清太の腕を取り、抱き寄せながら続ける。
「ちゃんと分かってるんだな・・・自分がどれくらい男を虜にするのか・・・。だから彼氏がいても関係なしに売りやったりできるんだよな」
 その首筋に、かみつくようなキスをすると、清太は感じて目をつぶった。
「3人で教えてやろうぜ、こいつが男娼だってことを」
 そのまま、武司は清太を押し倒す。その途端、ヒロが椅子から立ち上がり、バスローブを荒々しく脱いだ。

「おいっ! いい加減で俺も混ぜろよ!」
 涼は彼にはじき飛ばされるようにして、ベッドから降りてしまった。

 ベッド上に、3人の男がいて、一人を縦(ほしいまま)にしている。その光景は、涼には目を覆いたくなるようなものだった。まるで動く彫刻でも見ているようだ・・・と彼は思った。
 清太は仰向けでベッドに横になりながら後ろを武司に、口をヒロに与えている。
「金ははずむからな、何されても嫌だなんて言わないでくれよ!」
 ヒロは自分を少年の口にあてがいながら、興奮気味に言う。
「ん・・・」
 清太も少しも抵抗せずに、受け入れている。

『この子・・・なんでこんなにされるがままなんだ・・・。いっぺんに二人にやられても平気だなんて・・・。金さえもらえれば、なんでも許すっていうのか・・・?』
 涼は絨毯の上に立ったまま、青ざめていた。
「何突っ立ってんだ。お前も来いよ」
 武司が清太の脚を抱え、ベッドをきしませながら振り向いて言った。
「な、こいつも混ざったっていいだろ?」
 と、清太を見やって聞く。
 ヒロが清太の前に興味を移したので、彼は自由になった口で答える。
「うん・・・」
「なっ! ほら来いよ涼!」
 武司に言われても、まだ踏ん切りのつかない涼だった。
『でも・・・いくらなんでも男4人でからむなんて・・・俺にそんな勇気は・・・』
 かといって、止めに入ることもできないでいた。拳を握り締め、立ち尽くすしかなかった。

 その時清太が、今日逢ってから見たことがないような目つきを、ヒロと武司の体越しに、涼にした。それは、”蠱惑的”という表現がぴったりだった。
「ね・・・来て・・・」
 その蠱惑的な瞳で涼を捉え、囁く。

 これが、先ほどと同じ少年なのか・・・? 自分が抱いていた時とは、あまりに違っていた。何故か? ――そう考え、涼はすぐに一つのことに思い当たった。
 武司と体を繋いでいるからか。武司だから、何でも許すのか。本当の自分を見せるのか・・・?
 もちろん涼は、この場でそんなことを、時間をかけて論理的に考えていたわけではなかった。ほんの数秒のことだった。
 彼はやるかたのない嫉妬に襲われた。自分だけが、いまだ清太の全てを知らない。
 武司に一層激しく突かれ、清太はのけぞった。
「早く・・・!」
 少年は掠れた声で叫ぶ。彼の片脚が、天井高く掲げられた。
 涼はたまらなくなった。
 気が付くと、ベッドへと飛び込んでいた。

 涼の姿をそばに認めても、清太は恥ずかしがる素振りも見せず、二人の男に自分を与えていた。仰向けで枕を両手で掴み、かすかに自身も後ろを預けている男に合わせ、動いているようだった。腹の上にはヒロの上半身を載せ、自分のものを彼の口に遊ばせている。その姿を見て涼は、この少年がまるでこの世のものでない、魔性の何かのようだと思った。出逢った時とは最早別人だった。
 武司の目を見ると、彼はそれを”目配せ”と取り、にやりと笑い、目的を果たすと清太から離れた。武司に言われて、夢中になっていたヒロも涼に少年を譲った。
 初めは臆していた涼だったが、武司の後で清太の中に入ると、先ほどは途中までしか彼を抱くことができなかった悔しさから、まるで彼を憎んでいるかのように激しく愛した。今度は清太は、嫌がらなかった。

 その様子を武司とヒロは、同じベッドの上に座り、面白そうに見物している。
「あ・・・あんまり見るなよ・・・」
 涼は少年を抱きながら、恥ずかしそうに言った。
 すると武司は腕を組み、悪魔的ともいえる笑みを浮かべた。
「もっと強くしてやりな。そしたらもっと、いい顔が見られるぜ」
 涼は武司と清太の間にある、自分の知らない何かを知りたい一心から、言われた通りにした。
 そして、その顔を見た。――


 結局、3人と関係を結んでしまった。
 清太は当初、そこまでする気はなかったはずだが、自分がどこまで彼らに求められるのかという好奇心もあったのだ。その感情が徐々に頭をもたげ、止められなくなっていた。
 今、清太は後悔はしていなかった。3人が何をしたにせよ、レイプだけはされなかったので、特に体に痛みもない。途中で逃げようとすれば、それをされるだけになったかもしれない。そんな怖さもあった。
 枕にうつ伏せ、肩で息をしながら、彼は疲れを癒そうとしていた。

 そんな時、清太の顔の横に、長細い紙が2枚、ヒラヒラと舞い落ちてきた。彼は頭を動かし、見上げた。
「もっと欲しけりゃ・・・あと1万くらいはやるぜ」
 服を着た武司が、財布を手にして言う。他の二人も、服を着終わって後ろに立っていた。武司は二人に向かって、問う。
「お前らはいくら出す?」
「俺は・・・いろいろやらせてもらったから・・・、3万出すぜ」
 とヒロは、新しい洋服を買うために昨日銀行から下ろしたばかりの3万円を、惜しげもなく出した。
 涼は青白い、沈んだ表情をしている。
「俺・・・俺、払わねぇよ・・・金なんて・・・」
「なんだまだそんなこと言ってんのかよ!」
 武司は涼と向き合った。
「お前だって2発くらいはやっただろうが」
「やめろそんな下品な言い方!」
 少年が欲しさに、他の二人に加わってしまった涼だが、やはり正気に戻ってみると、後ろ暗い気持ちになっていた。

「ちゃんと・・・払ってよ・・・楽しんだくせに・・・」
 3人、声のするほうを見ると、清太が半身に布団を被ったまま、ベッドの上に起き上がっていた。その目つきは、まださっきまでの世界を引きずっていた。
「買い手に愛されて抱かれたなんて、思いたくないし」
 手馴れた娼婦のように、少年は言った。涼は赤くなりながら思った。自分はまるで、不得手な買い手だと・・・。
「分かった・・・君がそう言うなら・・・」
 涼は仕方なく、ジーンズの後ろのポケットに手を伸ばした。
「1万・・・? 少ないね」
 涼から1枚の札を受け取ると、少年は眉を歪めて上目使いに言った。次に、布団の中で脚を曲げ、外から両膝を抱えた。
「・・・まあいいや。3人で6万だし・・・。じゃ、もう帰るでしょ?」
 清太は3人を見やった。その表情は、艶然としていた。


a Boisterous Night